バソプレシン (ピトレシン®︎注) の概要

ピトレシンの使い方

【主な概要】

商品名 ピトレシン PITRESSIN
一般名 バソプレシン Vasopressin
規格 20単位/mL
pH 3.0-4.0
浸透圧 0.1
効能・効果 ① 下垂体性尿崩症
② 下垂体性又は腎性尿崩症の鑑別診断
③ 腸内ガスの除去 (鼓腸、胆のう撮影の前処置、腎盂撮影の前処置)
④ 食道静脈瘤出血の緊急処置
主な適応外使用 ⑤ 敗血症性ショック(NAdと併用)及び難治性の血管拡張性ショック
⑥ (蘇生時)
※ AHAガイドライン2015にてAdrenaline単独に対するVasopressin併用のメリットが示されず、ACLSのアルゴリズムから削除された
用量  ① 1回2〜10単位 1日2〜3 回皮下又は筋肉内注射。適宜増減。
② 5〜10単位を皮下又は筋肉内注射するか、0.1単位を静脈内注射し、その後尿量の減少が著しく、かつ尿比重が 1.010 以上にまで上昇すれば、バソプレシン反応性尿崩症が考えられる。
③ 5〜10単位を皮下又は筋肉内注射。適宜増減。

④ 20単位を5%ブドウ糖液など100〜200mLに混和し、0.1~0.4 単位/分 の注入速度で持続的に静脈内注射する。

⇨ 144-576 U/day ⇨ 6-24 U/hr
⇨ Vasopressin 10A=200U/NS500mL  20mL/hr
⇨ 8U/hr

0.01-0.04 U/min
⇨ 14.4-57.6 U/day ⇨ 0.6-2.4 U/hr

【組成】Vasopressin(2A=2mL=) 40U/NS38mL

【流速】0.04U/min = 2.4mL/hr = 57.6U/day

⑥ (40U iv)
副作用 心筋虚血、不整脈、高血圧、腸管虚血

※ピトレシン®️注射液20 添付文書、インタビューフォームより引用し作成

【作用機序】

血管平滑筋のV1a受容体に作用し、末梢血管収縮作用による昇圧作用を示す。
また、食道静脈瘤破裂においては、そのほとんどが門脈圧亢進症により発症するが、バソプレシンはV1a受容体への作用により腹部内臓の細動脈を収縮させて門脈血流を減少させ、一時的に門脈圧が下降させることで、食道出血での止血作用を示す。
腎集合管のV2受容体に作用し、アクアポリン2分泌により水の再吸収を促進し抗利尿作用を示す。
下垂体前葉のV1b受容体に作用し、CRH(corticotropin-releasing hormone:副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)によるACTH(adrenocorticotropic hormone:副腎皮質刺激ホルモン)の分泌を促進する。
腸管平滑筋のV1a受容体に作用し、腸管平滑筋を収縮させることで腸内ガス除去作用を示す。

※ピトレシン®️注射液20 インタビューフォーム、「ICU/CCUの薬の考え方, 使い方ver.2」「ICU実践ハンドブック 改訂版」より引用

【配合変化情報】

ノルアドレナリン ー バソプレシン の 配合変化

■NAd側 直接データなし(NG該当もなし)

「アルカリ製剤, 酸化剤, 金属イオンとの混合は避ける」

「静注用のアモバルビタールナトリウム, ペントバルビタールナトリウム, フェノバルビタールナトリウム, フェニトインナトリウム, セコバルビタールナトリウム, ヨウ化ナトリウム, ストレプトマイシン硫酸塩, チオペンタールナトリウム等と混合すると白濁する」

■ピトレシン側 データなし

※ 石井 伊都子 『注射薬調剤監査マニュアル 2018』エルゼビア・ジャパン, 2018年, p.421 より引用

【コメント・追記】

一般病棟での使用に際しては、④の食道静脈瘤出血時における使用が多く、ICUなどのクリティカルケアの現場では⑤の方が圧倒的に使用頻度が多いでしょうか。

個人的な経験でも、初めて出したのは当直中の④での症例でしたが、ICU担当してからは、Septic shock の症例でNAdと共に汎用されることを経験し、これらの2パターンでの使用が多い印象です。

どちらも該当領域では常識レベルで頻用されていますが、全体から見るとマイナーな使い方で、組成や用量、配合変化などを知らないまま、当直や日勤(当方施設での日曜当番)で問合せに当たるとちょっと悩むことも多い薬ですね。毎年1-2年目の後輩たちが当直中に初めて当たると相談を受けることが多いです。

④については食道静脈瘤:Esophageal varix より、「varixでピトレシン使うから!」などと病棟の会話で聞いて、最初は「バリックス??」となった経験が個人的にあるので、覚えておいてもいいかもしれませんね。

配合変化に関して、私は⑤での使用時において、ICUでのルート設計の現状(主病態を敗血症に限っても、カテコラミン・メイン輸液・抗菌薬・γ-glb・輸血など、かなり混み合うことが多い)を鑑みても、単独投与困難な状況下 NAdとはCVの同一ルーメンからの投与が許容されるものと考えています。

組成としては、当施設では

④ 食道静脈瘤
ピトレシン(20単位) ×10A + 生理食塩液 500mL 20mL/hr → 8U/hr

⑤ 敗血症性ショック
ピトレシン(20単位) × 2A + 生理食塩液(50mL) 38mL = 合計 40mL (=1U/mL)
2.4mL/hr (=0.04U/min) で持続投与

が定型処方ですね。

冷所保管の薬剤で、大量には在庫していない薬剤なので、連休前の発注タイミング過ぎてから食道静脈瘤の症例がきて大量に動くと、在庫本数見に行く薬でもありますね。

【参考書籍】

ICU/CCUの薬の考え方, 使い方 ver.2

大野博司先生による、ICUでの(多くの薬剤師にとっては、ある意味独特な)薬の使い方が、その薬理などまで丁寧に解説されています。内容も輸液・循環作動薬から、鎮静、栄養、抗菌薬など本当に多岐に渡ります。

初めてICUを担当した時、見慣れない処方の連続で戸惑う中での大きな助けとなった1冊です。

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ICU実践ハンドブック 改訂版

これもICU業務における定番書でしょう。「ICU/CCUの薬の考え方, 使い方」は作用機序と生理との橋渡しをしてくれる、医師・薬剤師や薬理などを学びたい看護師向けなのに対し、こちらは医師・看護師らの目線により近い、書名の通り実践的な内容となっています。
各種スコアや評価方法、処置や手技などがわかりやすく解説されていますので、集中治療に関わり始めた薬剤師が、病棟やカンファレンスで出てくるわからない用語を確認・学習する助けになる1冊です。

↓ 書籍版

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↓Kindle版

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注射薬調剤監査マニュアル 2021

注射調剤を行う病院薬剤師なら、誰もが一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
もはや説明不要の1冊かもしれません。

2018年版から著者・監修等が変わりました。今回調べたら、2021年の最新版が出ていたようですね。後発品への移行や新規薬剤の発売もありますので、3年での改訂は現場としてはありがたいところです。早々に購入を検討ですね。

この本に関しては、版によって収録しているデータ量に差異があり、旧版しか収録されていないデータもあります。私も職場で調べるときは年季の入った第4版2018年版を併用し、悩む組み合わせの時はボロボロになった第3版まで引っ張り出してきたりしています。

個人的には薬剤師がICUで看護師さんから聞かれる内容の第一位ではないかと思う、配合変化に関する定番書籍です。
新人の薬剤師は、関連書籍で配合変化の基礎(理論背景)を復習した上で、これらの膨大なデータを参照し、「理論的」かつ「実践的」な(理想論的な解答だけではICU患者でのルート設計は立ち行かないことが往々にしてありますので・・・) ルート設計支援の一助としていくことが重要と考えます。

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