注射薬の配合変化 ①【pH依存性-1】

配合変化を考える

相談事例でデータが揃っている組み合わせはほとんどない

病院薬剤師として勤務していて、配合変化についての質問を受けたことのない方はいないかと思います。

注射供給室で業務をしている今でも毎日のように問い合わせを受けますし、病棟業務をしていた頃もICUや救命センターなどのラインの混み合う患者さんを相手にしている時は毎日看護師さんに聞かれたり、こちらからルート設計支援をしていました。

対応していて気付くのは、インタビューフォームや配合変化データその他各種成書等を参照しても、確実に両薬剤側からの安定性データが裏付けられていて、投与OKですよ・・・と返答できる事例は非常にまれだということです。

そもそも相談される事例は、病棟の看護師さんたちが見慣れない組み合わせになるので、選択バイアスがかかっていることもあります。
しかし多くの事例はよくて片側、ないしそもそも実際の配合データがない組み合わせについて、リスクと現実を踏まえ、頭を絞りながら日々返答しているという現実があります。

「別ルートとってください」をいかに回避できるか

データがない組み合わせが多い中で、どうしても配合不適で避け難い際には「別ルートの確保」をお願いすることになるのですが、できる限り安易にこの結論を出さずに、打開案を模索することが重要となります。

投与ルートは何本あるのか、投与ルートの変更や薬物動態も考慮した投与時間・速度の変更、場合によっては薬剤の剤形変更などの総合的な選択肢を模索した上で、患者さんにとって最も安全かつ適した薬の投与ルートを提案するのが、配合変化の問い合わせを通して私達薬剤師に求められていることだと考えるからです。

部内教育による情報・認識の共有

注射薬に携わる薬剤師には必須と言えるスキルになるかと思いますが、若手教育する中で、実践的に教える機会も少ない領域でもあります。
実際に相談を受けた際に、ポイントをケース毎に伝えていくことがほとんどで、体系的に教育する機会を持ちづらいところが悩ましいですね。

教育や情報の共有が上手くいってないと 「○○さんに聞いたら▲▲と□□は一緒にいって大丈夫って言われたのに」「昨日追加の薬があったから当直の薬剤師さんに聞いたら、この前から持続でいってる■■と△△は同一ルートダメって言われちゃったんたけど・・・」などという事態にもなりかねませんので、注意が必要ですね。

pH依存性配合変化

まずは最も基本的な配合変化である、pH依存性配合変化について

危険な変化を予期し、処方監査時点できちんと見つけていく為には、まずは液性が酸性または塩基性に偏っている薬剤を把握しておくことが重要です。

下記に参考文献やIFなどから引用・抜粋した代表例を示します。

pHが酸性に偏っている薬剤の代表例

分 類主 な 商 品 名一 般 名規 格 pH 備 考
カテコラミン類ノルアドリナリン®️ノルアドレナリン(NAd)2.3〜5.0   
ボスミン®️アドレナリン(Ad)2.3〜5.0
イノバン®️ドパミン(DOA)3.0〜5.0
ドブポン®️ドブタミン(DOB)3.0〜4.0
鎮静薬ドルミカム®️ミダゾラム(MDZ)2.8〜3.8
Ca拮抗薬ペルジピン®️ニカルジピン3.0〜4.5
気道粘液溶解薬ビソルボン®️ブロムへキシン2.2〜3.2
消化管運動促進薬プリンペラン®️メトクロプラミド2.5〜4.5
抗菌薬バンコマイシン®️バンコマイシン(VCM)2.5〜4.5NSで5mg/mL 溶解時
ミノマイシン®️ミノサイクリン(MINO)2.0〜3.510mg/mL 溶解時
東海林 徹「注射薬配合変化 Q&A 第2版」, じほう, 2013年1月 より引用・一部改変

pHが塩基性に偏っている薬剤の代表例

分 類主 な 商 品 名一 般 名規 格 pH備 考
抗てんかん薬アレビアチン®️注フェニトイン約12
ホストイン®️注ホスフェニトイン8.5 〜 9.1
利尿薬ラシックス®️注フロセミド8.6 〜 9.6
ソルダクトン®️注カンレノ酸カリウム9.0 〜 10.0100mg/10mL
強心・喘息薬ネオフィリン®️注アミノフィリン8.0 〜 10.0
PPIタケプロン®️注ランソプラゾール10.6 〜 11.330mg/NS5mL
オメプラール®️注オメプラゾール9.5 〜 11.020mg/DW20mL
鉄剤フェジン®️静注含糖酸化鉄9.0 〜 10.0
抗ウイルス薬ビクロックス®️注アシクロビル(ACV)10.0 〜 11.0250mg/NS100mL
抗菌薬ユナシン®️-S注アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT)8.0 〜 10.01.5g/10mL
東海林 徹「注射薬配合変化 Q&A 第2版」, じほう, 2013年1月 より引用・一部改変

基本的に初めて見る組み合わせの場合は必ずその配合性の確認をする必要があります。

また、こうしたpH依存的配合変化が生じやすい薬剤を事前に把握しておくことで他剤だけでなく、同一ルートからの投与可否を病棟などで確認する際にも、リスクの高い組み合わせをすぐに確認しやすくなります。

pH依存性配合変化の詳細、その他の配合変化機序、実際の確認方法等は次記事にて記載していこうと思います。

コメント

タイトルとURLをコピーしました