【COVID-19】新型コロナウイルス ワクチン① 種類・作用機序

さて、これを書き始めたのはちょうど新型コロナウイルスワクチンの医療従事者への先行接種が始まる前でしたが、実際の準備や投与があった為、投稿に至ったのは自施設でも先行接種が開始した3月末となりました。

多岐に渡りますので、数本の記事に分けての記載となりますが、新型コロナウイルスワクチンに関して、現時点でのまとめをしてみたいと思います。

【ワクチンの機序の比較】

新型コロナウイルスのワクチンとして、初めて国内で薬事承認されたファイザー/ビオンテック社のコミナティ®︎筋注(BNT162b2)はmRNAワクチンというもので、この作用機序でのワクチンは世界初となります。

では、mRNAワクチンとは、今まで私たちが接種してきたワクチンとどのように異なるのでしょうか。

まずはこれまで汎用されてきた3つの種類のワクチンについて確認してみます。

① 生ワクチン

病原体となるウイルスや細菌の病原性を弱めたもの
弱毒化したウイルスや細菌が含まれているため、接種後に体内での増殖し始めることで発熱等の症状を呈することがある
液性免疫(中和抗体の産生)と細胞性免疫(細胞障害性T細胞)による強力な免疫が誘導される
弱毒化株の確立に時間を要する

例)麻疹、風疹、水痘、ムンプス(おたふく)、ロタ、BCG、ポリオ

② 不活化ワクチン

病原体となるウイルスや細菌を不活性化し、感染性をなくしたもの
生ワクチンと比較して免疫がつきにくく、アジュバントの添加や複数回接種などが必要になる

例)百日咳、肺炎球菌、Hib、ポリオ、インフルエンザ、B型肝炎、髄膜炎菌

③ トキソイド

病原体が増殖する過程で生じる毒素をホルマリンで無毒化したもの
不活化ワクチン同様、免疫増強する工夫が必要となる

例)破傷風、ジフテリア

参考文献:「Rp.+ 型を知り型を破るワクチン」南山堂, 2019年 Vol.18, No.4

これら①〜3とは異なる新機序のものが今回の新型コロナウイルスワクチンの中に含まれています

④ mRNAワクチン・・・ファイザー、モデルナ

核酸ワクチン
ウイルス抗原のタンパク合成における鋳型であるmRNAを、脂質ナノ粒子(LNP:Lipid Nanoparticle)に封入したもの
細胞内に取り込まれ、細胞質のリボソームにてウイルス抗原タンパクが産生され(=翻訳)、細胞表面に抗原提示される。この抗原に対して液性免疫及び細胞性免疫の免疫応答が生じる
導入されたmRNAは自然に分解されるため、人の身体の遺伝子には組み込まれない

⑤ DNAワクチン

mRNAワクチンと同じ核酸ワクチン
「DNA→mRNA→タンパク」と細胞内の遺伝情報
抗原タンパク合成(翻訳)の鋳型であるmRNAではなく、(転写における)設計図そのものであるDNAを導入する
mRNAに比して安定性に優れる為、LNPなども不要でそのまま投与される
転写→翻訳と、抗原タンパクの発現までに2段階を要する

⑥ ウイルスベクターワクチン・・・アストラゼネカ

ベクター(運び屋)として、病原性のないウイルスに特定の遺伝子を組み込んで投与する

増殖性の有無により分けられる

メリット
・アジュバントが不要
・抗原タンパク質発現の安定性
・細胞傷害性T細胞による応答誘導

ベクターウイルス選定に際しての課題
・ベクターウイルスに対する既存免疫による vaccine failure
・ヒトゲノムへのウイルスゲノム挿入変異による発がん
・ウイルスベクターそのものによる病原性

参考文献新城雄士, 鈴木忠樹.「新型コロナウイルスワクチンの国内導入にあたって―mRNAワクチンとウイルスベクターワクチンの基本」IASR Vol. 42 p36-37: 2021年2月号

アストラゼネカ社のウイルスベクターワクチン(ChAdOx1)では、ヒトにおける既存免疫が極めて稀と考えられるチンパンジーアデノウイルスがベクターとして用いられている

国内での使用が予定されている各ワクチンと機序


メーカー ワクチン
開発コード
商 品 名 機 序 投与回数
間 隔
保管温度
Pfizer(米)
BioNTech(独)
BNT162b2 コミナティ®️筋注 mRNA
ワクチン
2回
21日
-75℃
Moderna(米) mRNA-1273 mRNA
ワクチン
2回
28日
-20℃
AstraZeneca(英) ChAdOx1 ウイルスベクター
ワクチン
2回
28日
2〜8℃

2021年2月14日、特例承認にて薬事承認されたファイザー社のBNT162b2(コミナティ®️筋注)と、現在承認申請中のモデルナ社:mRNA-1273、アストラゼネカ社:ChAdOx1を、それぞれの機序と関連する特徴に絞って表にしたものです。(2021年3月末現在)

参考文献:一般社団法人日本感染症学会 ワクチン委員会「COVID-19 ワクチンに関する提言 (第2版)

mRNAワクチンであるファイザー及びモデルナ社のワクチンはどちらも冷凍での管理が必要で、特に国内で最初に承認されたファイザー社のコミナティ®️筋注は -75℃ での超低温管理が求められます。

実際に先行接種を担う多くの医療機関では、超低温での管理に対応できる設備を持たないため、超低温冷凍庫(ディープフリーザー)の配備が急務となりました。

これも、mRNAがRNA分解酵素によって容易に分解されることに由来します。
モデルナ社のワクチンが温度管理面で緩和されている点については、どういった製剤的な工夫の効果なのか、承認後にどの程度情報開示されるのかが気になるところです。

また、これまでのワクチン開発の経緯と比較して、mRNAワクチンの開発が非常に迅速に進んだことも、ワクチンの種類にも関係してきます。
もちろん、COVID-19が世界に及ぼした影響から、大量の研究・開発リソースが投じられたこともその要因の一つではありますが、mRNAワクチンはそもそも目的とするタンパク質をコードする遺伝配列さえ特定されれば、技術革新などにより複製が容易に可能となっており、もともと開発が短期間で済むというメリットがあります。

そして、mRNAワクチンという機序の技術自体は新型コロナウイルスワクチンに対して急造で開発されたわけではなく、これまでも他の疾患の予防・治療を目的に研究が進行してきていた背景がありました。

そしてLNPを用いたDDSなど、いくつかの大きなブレイクスルーにより実用化に向けて研究が成熟していたところに、今回のCOVID-19によるパンデミックが生じ、SERS, MERSなどの流行から得られたコロナウイルスについての知見の蓄積を下敷きとして、今回の迅速な開発に至ることができたものと思われます。

世界でのパンデミックから約1年で、有効なワクチンの投与まで歩みが進んでいるのも、こうした成果の賜物と言えるでしょう。

さて、次稿ではファイザー社のワクチン(コミナティ®️)に関する、接種体制の整備・構築に向けた具体的な部分についてまとめていきたいと思います。

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