【 経 緯 】
先日、Burkholderia cepacia (バークホルデリア・セパシア)の菌血症に遭遇する機会がありました。2セット(4/4)での検出、人工血管置換後という経緯もあり、真の菌血症として加療することとなった事例です。この血液培養の結果判明前から、血液培養にて Stenotrophomonas maltophilia(ステノトロホモナス・マルトフィリア)が検出され、CAZにて加療継続されている中での、血培からの検出
細菌室からの感受性結果を確認しても、耐性が強いためマルトフィリアと同等程度しか選択肢がありませんでした。薬剤選択にあたり確認・検討を要しましたので、内容を記録しておこうと思います。
(今回検討した薬剤の中には添付文書上の適応菌種と乖離があるものが含まれることをご承知おきください。)
【 微生物学的特徴 】
ブドウ糖非発酵菌に分類されるグラム陰性桿菌で、自然耐性が強い傾向にある。
一般にSPACEやPEK,nonPEKなどよりも耐性である。
院内感染や免疫不全者、嚢胞性線維症での肺感染などで問題となることが多い。
【 抗菌薬選択 】
耐性傾向が強く、感受性結果を元に判断していくこととなるが、各種テキスト・ガイドでの推奨を確認すると
青木本↓
選択すべき抗菌薬…ST合剤, メロペネム, シプロフロキサシン
青木 眞『レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版』医学書院, 2016年, p.40 より引用
代替薬…ミノサイクリン, クロラムフェニコール
備考…併用療法が必要かもしれない
プラチナマニュアル↓
治療
岡 秀昭「感染症プラチナマニュアル 2020」メディカルサイエンスインターナショナル, 2020, p.147 より引用
・薬剤耐性傾向が強いため、薬剤感受性を参考に慎重に選択する。
・ST合剤, MINO, CPFX, MEPM, CAZ などを単剤または併用する。
・アミノグリコシド系やCLは耐性。
サンフォード↓
第一選択
・至適処方は明らかでなく、in vitro 感受性検査の結果に基づいた抗菌薬選択を行う.
・ST(トリメトプリムとして) 8〜10mg/kg/日 静注6時間または8時間毎に分割
・LVFX 750mg 静注/経口 24時間毎第二選択
「サンフォード感染症治療ガイド2019」
・MINO 初回200mg 静注, その後100mg静注または経口 1日2回
・MEPM 1g 静注 8時間毎
・CAZ 2g 8時間毎
抗菌薬加療歴(CAZにて加療継続中)の影響か、実際の感受性結果では CAZ, CZOPには耐性であり、ST, LVFX, MINO, MEPMから検討しました。
ST |
今回の症例では第一選択か 副作用に注意して導入検討 適応菌種には含まれておらず、用量等も検討を要する |
LVFX | 耐性リスクを考慮すると現時点でキノロンを積極的に選択する必然性は乏しい STにてfailureした場合など、次点か |
MEPM |
経過長い症例でもあり、キノロン系に次いで温存したいところ |
MINO |
菌血症にて、静菌的なテトラサイクリン系は選択肢としては次点以降に |
今回は上記を経て、ST合剤(バクトラミン®︎注)の提案を検討しました。
ST合剤(バクタ®︎/バクトラミン®︎)の詳細な使用方法や投与設計、副作用モニタリングについては、長くなりますので別の記事にて記載する予定です。
【 参考書籍 】
レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版
通称:青木本
言わずと知れた感染症に関わる全ての人のバイブルとされる名著ですね。私も臨床で悩んだときには必ず開きます。
改訂毎にページ数が増加しており、辞書サイズなので持ち運びはちょっと厳しいですが、感染症診療に携わる以上は手元に置くべき1冊でしょう。
第3版は職場では書籍版、自宅や出先では電子版と、使い分けていました。
昨年11月刊行の最新 第4版はこちら → amazon(書籍版) / 医書.jp(電子版)
感染症プラチナマニュアル 2020
岡先生が精力的に毎年改訂されているプラチナマニュアル。
レジデントマニュアルが前回改訂からだいぶ経ってきたのもあって、ここ数年は現場で薬剤選択などを確認したいときに参照するポケットマニュアルとして活用しています。
私の場合は、その後に青木本や各種文献で詳細を確認したり、サンフォードやJohns Hopkins Antibiotic Guide で追加の情報収集をしたりといったフローですね。
値段もお手頃で、ポケットサイズに現場で重要なポイントが詰まっていますので、おすすめです。
サンフォード感染症治療ガイド 2020
こちらも説明の必要がないほどの著名なガイドですね。
書籍からアプリなどへと形を変えつつも、今も多くの臨床医のポケットに入り続けている1冊でしょう。
その内容の素晴らしさは改めて説明する必要はないかと思いますが、それ故ついつい、経験を積むまでは”盲信”してしまいがちでもあります。(自分も若手の時につい安易にこれをやってしまい、先輩に指導を頂きました。)
薬剤師としては、特にその投与量設計に際しては
- 国内の保険適応用量と記載の用量 (“Sanford dose”)との差異
- 日本人、国内や自施設での実情
(ScrやCLcrの評価、HDやCHDFでの流量設定や膜の違い) - ローカルファクターや患者状態
などを考慮して、”サンフォードに●●と書いてあるから”という安易な選択を避けつつ、それらの根拠となる薬物動態を常に頭に描いた上で、投与設計をしていかなければならないと考えています。
情報を吟味した上で、自分の目の前の患者さんへ最適な投与設計を行うためにも、やはり避けては通れない1冊です。
おそらく数年前までは、メーカーが自社製品の名前印字のカバーをつけて大量配布していたので、あちこちに置いてあるというありがたい?状況だったと思いますが、近年の規制強化によりそういったことは無くなりましたので、もし見たことがないという若手の方がいましたらご参照ください。
自腹を切って購入する価値は間違いなくありますので、病院で最近見かけてないなという方がおられましたら是非。
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